客观日本

「リニア新幹線工事実施計画認可-挑戦的プロジェクトに期待と懸念」

2014年10月25日 铁道技术

東京-名古屋間を40分、大阪延伸時には東京-大阪を1時間7分で結ぶJR東海中央新幹線の工事実施計画を、国土交通省が10月17日認可した。13年後の1927年に東京(品川)~名古屋間の開業を目指し、2045年に大阪まで延伸させる計画となっている。総事業は、東京~名古屋間で5兆5,235億円、大阪延伸までに9兆3,000億円かかると試算されている。全額をJR東海が負担するとしている。

東海道新幹線の工事と大きく異なる点は、品川~名古屋間の路線距離286キロのうち86%がトンネルという点。南アルプス、中央アルプスを横断するトンネルの長さはそれぞれ約25キロ、約23キロに及ぶほか、品川と神奈川県に建設予定の駅間、名古屋と岐阜県に建設予定の駅間も、地下トンネルがそれぞれ約37キロ、約34キロと山岳地帯以上の長さになる。

工事計画認可を伝える新聞各社の報道も国内の経済波及効果、海外への超電動リニアのシステム移転が期待されていることに触れる一方、膨大な量に上る工事残土の処理、地下水、生態系への悪影響のほか難工事、採算に対する懸念が存在することを指摘している。  中央新幹線が、世界初の超電導を利用した磁気浮上式鉄道(リニア)として内外が注目する挑戦的なプロジェクトであることは疑いない。JR東海が中央新幹線建設に踏み切った理由のひとつは、東海地震や東南海地震、南海地震あるいはそれらが一挙に起こる巨大地震の再来時に東海道新幹線が運行不能となった場合の代替交通機関が必要というものだ。東海道新幹線の老朽化によるバイパスづくりを急ぐ必要があることも挙げている。さらに、ドイツの技術を導入した中国・上海のリニアモーターカー(常電導磁気浮上式)と異なる超電導磁気浮上式を採用した狙いについて、浮上力が優れており、より高速運行が可能な利点を強調している。

中央新幹線の最高設計速度は時速505キロ。すでに2003年に山梨リニア実験線での試験走行で世界最高時速581キロを達成済みだ。08年暮れに日本記者クラブで記者会見した葛西敬之・JR東海会長(当時、現名誉会長)は、技術的な優位を次のように語っていた。

「上海のリニアは磁力が弱く1センチしか浮上せず、最高速度も時速430キロまでしか出せない上に、13.3キロ走行しないと最高速度にならない。こちらは10センチ浮上し、3.9キロ走るだけで時速430キロに達する」。車体を軽くすることができるため上海のリニアが5両編成なのに対し、東海道新幹線と同じ16両編成が可能という長所も葛西氏は挙げた。

日本全体に対する経済的効果を期待する声も聞かれる。加藤義人・三菱UFJリサーチ&コンサルティング政策研究事業本部名古屋本部副本部長は「リニア時代到来への期待」と題するレポートの中で「三大都市圏が一体化することにより、首都圏の過密集中の是正、名古屋圏・近畿圏による首都圏機能の補完・バックアップが可能になる。一極集中の是正や均衡ある国土の発展を促し、諸外国の大都市圏との国際競争上も有意に働く」と評価している。

加藤氏は品川~名古屋間のリニア開業で期待される経済効果は、開業後50年間で10兆7,000億円、品川~大阪間の開業の効果を含めると16兆8,000億円に上る、という試算も示している。

JR東海には、超電導リニアを海外に売り込む狙いもある。08年の記者会見で葛西氏は相手国としては「政治的に安定で、契約の順守が法律できちんと担保され、知的所有権が尊重される」という条件を示し、候補地として「米大陸」という具体名にまで触れていた。さらにJR東海は10年の1月、東海道新幹線方式と超電導リニアの両方式の鉄道システムを米国に売り込むため積極的な営業活動を始めたことを明らかにしている。

こうしたJR東海の積極的な姿勢に対し、沿線住民組織や自然保護団体が、環境影響調査が不十分とする反対行動を展開している。さらに東海道新幹線を補完する新幹線に超電導リニア方式を採用すること自体、採算、安全の両面からリスクが大きいことを批判する有識者もいる。

日本開発銀行、経済協力開発機構(OECD)都市環境局などで都市、環境問題の調査、研究に関わった経歴を持つ橋山 禮治郎 千葉商科大学客員教授・アラバマ大学名誉教授は、まず、東海道新幹線の輸送実績がこの20年間はほとんど伸びていないことなどを指摘し、東海道新幹線の輸送力が限界だから増強が必要という建設理由に疑問を呈している。さらに、地下を走行する区間は5-10キロメートルごとに立て坑を設け、事故が起きた場合はここから避難させる計画についても、立て坑のエレベーターが間違いなく動くのかなど安全確保の観点から懸念材料が多いことも指摘している。

rijnus

 小岩井忠道(中国総合研究交流センター)

 

関連記事・サイト

2014年10月17日国土交通省プレスリリース「中央新幹線(品川・名古屋間)工事実施計画(その1) の認可について」

http://www.mlit.go.jp/common/001057993.pdf

2014.10.17JR東海プレスリリース【社長会見】「名古屋建設部及び中央新幹線工事事務所の新設について」

r-central.co.jp/news/release/nws001535.html

JR東海ホームページ・事業紹介「中央新幹線」

http://company.jr-central.co.jp/company/others/chuoshinkansen01.html

2014年8月JR東海ホームページ「中央新幹線(東京都名古屋市間)環境影響評価書のあらまし」

http://company.jr-central.co.jp/company/others/assessment/document1408/_pdf/eis2_alloutline.pdf

2014年10月17日日本自然保護協会プレスリリース「国土交通大臣によるリニア中央新幹線事業認可に対する緊急声明を出しました」

http://www.nacsj.or.jp/katsudo/kokuritsu/2014/10/post-30.html

2013年9月13日三菱UFJリサーチ&コンサルティング・政策研究レポート・加藤義人政策研究事業本部名古屋本部副本部長「リニア時代到来への期待」

http://www.murc.jp/thinktank/rc/politics/politics_detail/seiken_130918.pdf

2012年10月25日サイエンスポータル・ハイライト・橋山 禮治郎 氏(千葉商科大学大学院客員教授、アラバマ大学名誉教授)「リニア中央新幹線は必要か」

http://scienceportal.jp/columns/highlight/20121025_01.html

2010年4月30日 サイエンスポータル・ニュースリニア中央新幹線東京-名古屋開業2027年に 】

http://scienceportal.jst.go.jp/news/daily/1004/1004301.html

2010年 1月26日サイエンスポータル・ニュース【JR東海米国の高速鉄道建設計画に本格参入

2009年12月25日サイエンスポータル・ニュース【JR東海中央新幹線の調査報告書提出

2009年 1月 1日サイエンスポータル・ニュース【JR東海会長中央新幹線の】実現に自信

2009年 1月 1日サイエンスポータル・レビュー【超電導リニア新幹線の世界展開は