真実を求むべからず現実は小説よりも奇ありの虚構
異文化の壁の厚さを訴えつつ祈りてやまぬ広き胸襟を
自文化の海をすいすい泳いても忘れる勿れ外来魚あり
違ふ鳥違ふ歌声ありてこそ天籟響く豊潤な森
何したい何ができるか我に聞くチャンスをもらい新たな道を
ハサミにてボケの枝切りまた矯める今を生けつつ表裏を知らず
矯められて折られていてもボケの花雪に微笑む紅梅の如
親元の樹より切られて剣山に立ちて微笑むボケの花かな
枝もよし葉も花もよしボケの樹の故郷知らず只管生けむ
透明な壁に向いて透明な心を生けて花と語らむ
わが心花と触れ合ふ喜びを噛み締め過ごす異郷の日々を
透明で厚き壁の前清らかな花の心は今透きて見ゆ
原産の故郷の地を望むボケ異郷を包む春風を待つ
馬を追ふ時が過ぎ去り草原に佇み羊と夕日眺めむ
夕暮れに消え去る蹄聞きながら羊と共に明月を待つ
歌人/胡兴智