日中大学フェア&フォーラム 開催報告&レポート

【速報】日中大学フェア&フォーラム in イノベーションジャパン2016 - #03

2016年08月30日 小岩井 忠道(中国総合研究交流センター)

 日中大学フェア&フォーラムに合わせ来日した広西チワン族自治区の何求 科学技術協会副主席を団長とする同自治区科学コミュニケーション関係者たちが8月26日、沖村憲樹 科学技術振興機構(JST)特 別顧問・中国総合研究交流センター上席フェローと、科学技術館の役割や青少年育成問題を中心に意見交換した。この会合で、科学技術館の建設を重視する中国が、科学技術館の役割を強化する動きを一層、強 めている現状が明らかになった。

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写真1 沖村憲樹氏(右列中央)と意見交換する何求氏(左列手前から3人目)ら広西チワン族自治区訪問団。何氏の奥は江洪 広西科技館館長。

 中国は、1970年代末から始まった改革開放以来、新しい社会教育法、社会的公益事業として科学技術館の建設が急速に進められた。2002年制定の「科学普及法」に続き、「全国民科学素質行動計画綱要」( 06年)、「科学普及能力構築の強化に関する意見」(07年)、「科学普及基礎施設発展計画」(08-15年)と、次々に繰り出された推進策が建設に拍車をかけた。「全国民科学素質行動計画綱要」は、各 省都市や自治区首府に、大・中型の科学技術館を少なくとも1館設置することなどを定めている。裕福な省、直轄市と、豊かでない省とでは中央、省の資金支援比率に差があるものの、科 学技術館建設は国主導で進められているのが、特徴だ。

 科学技術館建設の実質的な推進役となっているのが、非政府機関であるものの科学技術振興に大きな影響力を持つ中国科学技術協会。160を超す学会を傘下に置き、科学技術の発展・普 及促進を目的とする省クラスの科学技術協会と多くの地方、下部組織、430万人余りの会員を擁する強大な団体だ。何求 広西チワン族自治区科学技術協会副主席が、沖村JST特別顧問に明らかにしたところでは、中 国の科学技術館の9割は科学技術協会の管轄下にある。これらのうち北京、上海、広東省を除くすべての科学技術協会管轄の科学技術館が、昨年5月から入場料を無料とした。

 何氏によると、北京、上海、広東省の科学技術館が入場料を無料としなかった理由は、有料でも入館者が多い上に、無料にしたら人が入りすぎて安全上支障が出る、というものだ。広 西チワン族自治区も首府の南寧市にある広西科技館は、有料の時から入館者が年間100万人に上る。これ以上入館者が増えると安全が確保できないので、入館料を無料にした後、入館者数を制限する措置をとっている、と 何氏は話した。

 米国ワシントンのスミソニアン博物館、英国ロンドンの大英博物館、自然史博物館など入場料をとらない欧米の著名な博物館、科学技術館があることは、よく知られている。一方、訪問団の一員である江洪 広西科技館館長からも「モデルと考えている」と高く評価された科学未来館をはじめ、日本の科学技術館、博物館は有料が当たり前。「国民の科学素養を高める」という科学技術館の目的・意義と、人 材育成も含めた今後の協力の必要について、訪問団と沖村氏の意見は一致した。他方、入場料の有無という運営の根幹部分に関しては、日中両国の科学技術館の現状に大きな差ができていることも、両 者の意見交換で明らかになった。